日々の雑学 ●●●
日々、ふと思ったことを書いていきます。   ・・・千葉ロッテ・マリーンズ、菅野よう子、再生可能エネルギー、自然環境、里山、棚田、谷津田、日本近世史、歴史小説、時代小説、クラシック音楽、・・・などなど。
山本周五郎「ながい坂」四読
2006年03月20日(月) 22:20
おそらく、四読目になると思うが、久しぶりに山本周五郎の「ながい坂」(上)(下)を読む。
浅田次郎の「蒼穹の昴」を読んだ後で、軽いものを読みたいと思っていたのになぜか、また、重いものを選んでしまった。

おっと、Amazonには表紙写真がないですね。紀伊国屋から持ってきましょう。


現在、我々は、周五郎以外の時代小説にたくさん触れる機会を得ることができるので、立身出世成長物語もさまざまな作家の文体の中で出会うわけです。

そういう体験を経た上で、改めて山本周五郎に戻ると、特にこの「ながい坂」のような、武家青年の成長出世物語タイプの小説は、「樅ノ木は残った」や「虚空遍歴」などとは違って、類似タイプと言える類型が他の作家に多くあるので、客観的な比較の中で読む形となる。

特に四読目、ともなると、ストーリーのゆくたては、覚えているから、勢い、こちらの体勢も、いささか粗探し的な、読み方をしていると思う。

三浦主水正(もんどのしょう)は、たいへん魅力的で、この長編を引っ張って行くのに十分な人物造形を持っている。
滝沢兵部も良い、つる も良いし、ななえ も良い、大造も良い。そして、藩主飛騨守昌治も良い・・・。
・・・のだが、それ以外のバイ・プレイヤーについては、もう少し整理が出来たのではないか、という気がする。

登場人物をもう少し人数的に絞り込んで、それぞれに強烈なキャラクターを与えれば、もっと「生きて」来る人物が敵側、味方側双方に作れたのではないか、という点が勿体無い。
これは両派若手藩士たちにも、両派重臣たちについても、両派御用商人たち、また、師たちにも、米村家や伊平を始めとする農村の人物たちについても言える。

また、両親と弟はもう少し物語の流れに、ポジティブな方向にもネガティブな方向にも生かす方法はあったのではないか思うが、あまりにあっさりと語られていて、その「隔絶」したところこそが主水正のキャラだとしたら、逆に、弟が新畑に再登場するエピソードは不要だ。

また、前半であれだけ紙数を割かれた「捨て野」への井関川からの堰による引水、新田開拓について、結局、最後は、工事の順調な進捗を仄めかすだけで物語りは終わっており、堰の成果がどうなったのか、は、前半に割かれた圧倒的紙数からすれば、少し物足りない感じがある。

いずれにせよ、奥野健男氏の文庫解説にもある通り、「主水正の出来過ぎ」は少しあんまりだし、可愛気がない。

また、権力への執着ということと、撤去された橋への反骨というテーマは、どこかで整合性を取らないといけない主題で、主水正という人物の拠って立つところがわからなくなってしまうと思うのだが、スタートラインであった撤去された橋への反骨から、主水正が「選んだ」道は、「立身出世」ということではなかったのか?

前半の、藤明塾ではなく「私はどうしても尚功館へあがりたんです」と言う阿部小三郎のモティベーションは自己研鑽とか、人物成長というよりも直截に「立身出世」にあると思うだが、後半になると、「立身出世」は脇に追いやられ、結局、主水正は、「何をやりたかったのか」という部分が弱くなってくると思う。

主水正の独白の韜晦は同じところを逡巡しているようで煩わしく感じる部分もある。
別窓 | 時代小説歴史小説 書評日記 | コメント:1 | トラックバック:2 | ↑top
<<ワールド・べースボール・クラシック 決勝 | 日々の雑学 | ワールド・べースボール・クラシック 準決勝>>
この記事へのコメント
はじめまして。『ながい坂』をつい先日読み終えました。若干のツッコミ所もありましたが、全体としてはたいへん面白く読みました。私の記事をトラックバックしますので、よろしければ読んでみてください。
2006年04月05日(水) 21:51 | URL | narkejp #flFdlPW.[ 内容変更]

↑top | under↓
コメントの投稿














管理者だけに閲覧

この記事のトラックバック
トラックバックURL

list FC2ブログユーザー専用トラックバックURLはこちら
三浦主水正を暗殺するために、五人の刺客が来ると言う。新藩主擁立を狙う一派の策動に、城代家老の交替と堰堤工事の中止が決まり、主水正はななえと赤子を連れて、百姓として身を隠す。襲撃を乗り越え、開墾地でじっと身をひそめている間にも、流産したななえはぬけがらのよ
2006年04月06日(木) 19:45 電網郊外散歩道

8歳の時に父親とともに釣りに行く途中、いつもの小道にある橋が壊されていた。それを誰も咎めるものがいない。理不尽ではないか。偶然に目撃した藩の抗争事件についても、口をつぐみ誰も何も語らない。この現実を正したい、そう決意した阿部小三郎は、学問と武芸に励み、頭
2006年04月06日(木) 19:46 電網郊外散歩道

↑top | under↓
| 日々の雑学 |