2013年08月29日(木) 23:52
真山 仁という人は、作家であって、エネルギーまして地熱の専門家ではないのだが、そういう人が自分で訴えざるを得ないところに、日本のエネルギー政策の腰の弱さが露呈している、と痛感する。
火山国である日本で、CO2フリーで燃料代もかからない地熱発電が、なぜ普及しないのか、素朴な疑問から著者の調査はスタートしている。 その取材は主として、自分の作品である小説「マグマ」の執筆のための取材活動であり、3.11よりも以前のことなのだが。
「マグマ」が出版されたのは2006年のことである。 外資系投資ファンド会社勤務の野上妙子が休暇明けに出社すると、所属部署がなくなっていた。 ただ1人クビを免れた妙子は、支店長から「日本地熱開発」の再生を指示される。 なぜ私だけが? その上、原発の陰で見捨てられ続けてきた地熱発電所をなぜ今になって―? 政治家、研究者、様々な思惑が錯綜する中、妙子は奔走する。 世界のエネルギー情勢が急激に変化する今、地熱は救世主となれるか!? 次代を占う、大型経済情報小説。 という内容の経済小説なのだが、著者曰く、主人公はもちろんフィクションだが、ヒロインが直面する様々な障壁は、実際に取材して得た、地熱発電をめぐる環境をそのまま描写したもので、そこに誇張はない、と語る。 地熱関係者にたくさん取材して感じた、矛盾、納得の行かない不合理が、創作のエネルギーの根源になっている、という。 「日本には資源がない」から、仕方がない、と、政治家も経済界も「有識者」も市民も、みんなそう考え、そこから発想している。 本当に日本には資源がないのか? 世界第3位の地熱エネルギーポテンシャルを持ちながら、現在地熱からでは発電量の0.3%しか得られていない。 何かそこには、促進できない、合理的・科学的根拠があるはずだ、と思って、著者は取材に入るのだが、知れば知るほど、「地熱ができない理由などない」ということがハッキリしてくる。 再生可能エネルギーとされる分野の中では、唯一365日24時間平準化された稼動が期待でき、外国からなにも輸入をする必要がなく、二酸化炭素を出さず、廃棄物も温泉水と同程度の成分の排水を地下に戻してやるだけだ。 しかも、現在、地熱発電を盛んにやっている、フィリピンやニュージーランドなどで稼動している地熱タービンは、富士電機や東芝や三菱重工製の日本の技術なのである。 原発を止めると日本重電産業が困る、というような経済界の発言がまかり通っているのだが、重電業界の中での部門が変わるだけのことだ。 同じ会社が作るのである。 太陽光や風力は、変動するので、原子力に代替できない、という議論は、もちろん火力と揚水発電を調整すれば、ベース電源として、代替することは、可能ではあるのだが、それ以前に変動しないベース電源向きのエネルギーとして地熱がある。 太陽光や風力は、どの国でもできるが、地熱ができるのは、プレートの境界にあって、火山が噴出している国でなければできない。 日本の政治と経済界とメディアと市民が、いかに不勉強で、うかうかと過ごしてきたかが、良くわかる。 小説「マグマ」は、著者は日本のエネルギー業界に一石を投じ、大きな反響があるに違いない、と上梓したわけだが、反応はごく薄く、地熱関係者の周囲からの限定的なものだった、という。 2006年当時、電力に対する市民意識というのは、京都議定書のことはあったものの、地熱というキーワードに敏感に反応するものではなかったろう。 そして、こと地熱に関しては、太陽光や風力、バイオマスなどに比べても、3.11以降でさえも、まだまだ注目の度合いは低いと言わざるを得ない。 エネルギーの問題に従来から相当アンテナを高くしているつもりだった私でさえも、地熱は「何か技術的な障壁が高くて普及しないのだろう」と、根拠もなく漠然と思っていた。 繰り返すが、地熱が進まない科学的・合理的根拠などない。 地熱関係者以外の周囲が、ボーっとサボっていただけだ。 地熱をやれない理由などない。 国立公園法などの規制は、過去の話であり、温泉業界の反対などは被害妄想でしかない。 何万年も地盤が動いていないような、大陸の多くの国では、放射性廃棄物の処分はできるかもしれないが、マグマ溜りはとてつもなく遠く、地熱はマネをしようとしてもできないのである。 日本の国土には何が向いているのか、考えた方がいい。 それと沸点の低い液体を使って発電する「バイナリ発電」という言葉も、覚えた方が良い。 バイナリ発電だと、地熱発電適地が一気に拡大する。 阿蘇くじゅう国立公園内にある、国内最大の八丁原(はっちょうばる)地熱発電所 ![]() 万一壊れたって、これが壊れるだけで、何年も人が住めなくなるわけではない。 地震国だからこそ持てる資源、地熱。 日本は資源大国かもしれない、という可能性を感じる。 スポンサーサイト
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ワタクシ今まさに地熱バイナリ蒸気タービンの主蒸気止め弁・加減弁の引き合いと格闘している最中です。
まあ地熱というのは良いエネルギーではありますが、 硫化水素対策とシリカ対策という、火力や原子力の蒸気タービンでは考慮する必要の無い厄介な問題があり…はっきり言って面倒です。 うちの会社では『地熱仕様』と言うとキワモノ扱いです。 一昨年は、ニュージーランドの某地熱発電所に納めた製品のクレームの後始末に追われ、大変な思いをしました。 個人的には地熱バイナリがもっと普及して欲しいと思いますが、 シェールガス絡みでLNGの価格が安くなってしまったら、 地熱バイナリが普及する前に火力のガスタービンが増えてしまうと思うので、 なかなか難しそうですね。 |
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